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グループ安全規格:ISO13850

ISO13850は「機械類の安全性 - 非常停止機能 - 設計原則」であり、機械の非常停止装置を設計するための安全要求事項が記載された規格(B規格)です。リスクアセスメントの結果、必要な場合にリスク低減を行います。非常停止機能は保護方策における、付加保護方策に該当します。

なお、リスクアセスメントおよび保護方策についての解説は、以下のリンク先にてご確認ください。


 
非常停止機能は、人の“意図した”非常停止用押ボタンスイッチの操作により、人の挙動または予期しない危険事象によって現実に発生している、または切迫した非常事態を回避するための機能です。そのため、機械の全ての運転モードにおいて、他の保護機能(たとえば、捕捉された人の解放、消火)を損なうことなく、他の全ての機能および操作に優先する必要があります。
また、人が“意図した”非常停止スイッチのリセット操作(規格上の表現は“解除”)を行うまで、機械の運転停止状態を維持することも必要です。
そのため、非常停止機能は以下の安全要求事項を満足する必要があります。

1 意図した操作

1.1 推奨されるアクチュエータや銘板について

非常停止用押ボタンスイッチは切迫した非常事態において、人が“意図して”できる限り素早く操作したいため、高い視認性、操作性および躊躇することなく操作できることが必要です。そのため、以下の安全要求事項があります。
 

ISO13850:2015(JIS B9703:2019)

4.1.1.2項
非常停止機能は、いつでも利用可能かつ操作可能でなければならない。

4.3.6項
非常停止機器のアクチュエータは、赤でなければならない。 アクチュエータ背後に背景があり、実施可能な場合、背景は黄色でなければならない。

4.3.7項
アクチュエータおよびその背景のいずれにも、文字または図記号を記載したラベルは付けない方がよい。
アクチュエータ(ボタン)のアンラッチングの方向を明示する必要がある場合、その表示はアクチュエータと同じ色、又は、ほぼ同じ色でなければならない。

このように、非常停止機器のアクチュエータや銘板に「非常停止」や「EMERGENCY STOP」などの文字や記号を表示しないことが推奨されています。これはグローバル化に伴う作業者の第1言語の多様性から、文字・図記号を認識しなくても


という共通認識を持ってもらう意図が背景にあります。

たとえば、人が非常停止用押ボタンスイッチの操作を意図した時、読めない/理解できない文字や図記号が記載されていると、操作を一瞬躊躇し、緊急性が求められる非常停止機器の操作が遅れる恐れがあるためです。なお、読める/理解できる文字が記載されていたとしても、文字・図記号を認識してから操作するより、赤と黄の色の組合せで認識して操作する方が素早く操作できることも期待されます。


そのため、非常停止用押ボタンスイッチに銘板を使用する場合は、以下の無地銘板をご使用ください。
 
IDECの非常停止用押ボタンスイッチ銘板
取付穴サイズ 品名 文字仕様 形番
(ご注文形番)
材質 地色
Ø16 中形(Ø30)ボタン用銘板 無地 HAAV-0 ポリアミド樹脂 黄色
大形(Ø40)ボタン用銘板 HAAV4-0
Ø22 大形(Ø40)ボタン用銘 HWAV-0-Y ポリアミド樹脂
特大形(Ø60)ボタン用銘板 HWAV5-0 PBT樹脂
Ø30 HNAV-0 ポリアミド樹脂

また、非常停止用押ボタンスイッチの操作を躊躇させないため、リセット方向を示す矢印マークが目立ち過ぎないことが求められています。作業者によってはリセット方向を示す矢印マークが非常停止用押ボタンスイッチの操作方向を示していると誤解する可能性があるためです。

非常停止用押ボタンスイッチは、以下の対応製品をご使用ください。

1.2 非常停止機器の配置について

非常停止用押ボタンスイッチは主として非常事態において操作されるため、可能な限り素早く操作できるように、配置に関する安全要求事項があります。
 
ISO13850:2015(JIS B9703:2019)
4.3.2項
非常停止機器は、次の場所に配置しなければならない
  – リスクアセスメントの結果によって必要としない場合を除き、各オペレータコントロールステーション
  – リスクアセスメントによって決定される他の場所

例えば、
  – 出入口
  – 機械への介入、例えば、ホールド・ツゥ・ラン制御機能の操作が必要な場所
  – 設計上、人と機械の干渉が想定されるすべての場所(例えば、搬入/搬出区域)

非常停止機器は、操作を必要とするオペレータおよび他の人が直接近づくことができ、かつ、危険のない操作ができるような位置に取り付けなければならない。
手で操作することを意図した非常停止機器のアクチュエータは、接近のための平面(たとえば、床、プラットフォーム)から0.6m以上1.7m以下の高さに取り付けることが望ましい。
新規および/または既存の機械においては、上記安全要求事項を満たす位置に非常停止用押ボタンスイッチが配置されていることをご確認ください。なお、自動運転などの定常時だけでなく、段取り替えやメンテナンスなどの非定常時においても、作業位置近傍に非常停止用押ボタンスイッチが配置され、操作可能であることをご確認ください。

2 意図しない操作の防止

2015年にISO規格が、2019年にJIS規格が改訂されるまでは、対象となる工作機械、食品機械等において、非常停止用押ボタンスイッチにスイッチガード(規格用語:保護シュラウドと同義)を使用することは認められていませんでした。
しかし、規格改訂により安全要求事項として「非常停止機器の意図しない操作の防止」が追加されたこともあり、条件付きでスイッチガード(保護シュラウド)の使用が認められるようになりました。
ISO13850:2015(JIS B9703:2019)
3.7項
保護シュラウド(protective shroud)
非常停止機器の意図しない操作の可能性を低減するための機械的方策

4.5項
非常停止機器の意図しない操作の防止
非常停止機器は意図しない操作を防止するように設計しなければならない。
実施可能な限り、意図しない操作は、機器の設置位置によって防止しなければならず、他の設計方策の適用よりも優先しなければならない。
非常停止機器の操作は損なわれてはならない。非常停止機器の意図しない操作を防止するために、例えば次の予防策をとることができる。
 – 予見可能な激しい往来のある区域から離れた場所への非常停止機器の設置
 – 非常停止機器のタイプ、適切なサイズまたは形状の選択
 – 操作盤のくぼんだ面への非常停止機器の取り付け

意図しない操作を防ぐために必要な場合、および他の方策が実施不可能な場合を除き、非常停止機器の周囲への保護シュラウドの使用は避けることが望ましい。
意図しない操作に対する方策が、非常停止機器の操作を必要とする機械オペレータおよび他の人の予見可能なあらゆる位置からの手のひらによる操作を妨げてはならない。

4.3.2項に示される非常停止用押ボタンスイッチの配置、および、4.5項に示される意図しない操作の防止策を検討した結果、やはりスイッチガード(保護シュラウド)が必要と判断した場合は、以下のスイッチガードと非常停止用押ボタンスイッチを組み合わせてご使用ください。
以下の組み合わせはTÜVラインランドによってISO13850:2015の適合確認を受けております。

3 意図したリセット操作

3.1 リセット時における人の意図の重要性について

非常停止用押ボタンスイッチは主として非常事態において、人が“意図して”操作するため、そのリセットにおいても“意図して”操作することの重要性が安全要求事項に記載されています。

ISO13850:2015(JIS B9703:2019)

4.1.1.2項
非常停止機能は、人間の意図した操作によってリセットされなければならない。非常停止機能のリセットは、非常停止機器の解除によって作動しなければならない。リセットによって機械が始動してはならない。

3.2 リセットに関する取扱説明書への記述について

非常停止用押ボタンスイッチは主として非常事態において操作されるため、リセットについてユーザに周知すべきことが安全要求事項として記載されています。
 

ISO13850:2015(JIS B9703:2019)

4.1.4項 非常停止機器の解除
非常停止機器の作動後および解除前に,作動した原因を発見するため,機械類を検査することを機械の取扱説明書に記載しなければならない。

非常停止用押ボタンスイッチが操作されたということは、何らかの非常事態が生じた可能性を意味します。そのため、非常停止用押ボタンスイッチをリセットする前に、操作された原因を確認するとともに、安全が確保されていることを確認する必要があります。このことをユーザに周知する必要があるため、非常停止用押ボタンスイッチの操作後およびリセット前に確認すべきことを取扱説明書に記載ください。
 

3.3 推奨されないリセットタイプについて

規格改訂により使用が推奨されなくなった非常停止機器があります。使用禁止ではありませんが、使用するには以下の条件を満足する必要があります。
 

ISO13850:2015(JIS B9703:2019)

4.3.6項
解除(アンラッチ)するためにアクチュエータ上に鍵を必要とする非常停止機器は、使用しないほうがよい。
非常停止アクチュエータが鍵の使用によってだけ解除できる場合は、手の傷害を避けるために、以下を実施しなければならない。
  • 鍵の正しい使用法を機械の取扱説明書に記載する。
  • アクチュエータを解除するときだけ、鍵をセットすることが望ましいことを示す警告を表示する。

この安全要求事項が追加されたのには理由があります。リセット用の鍵はアクチュエータに挿入された状態で放置されることもあり得ます。その状態に気付かず、非常時に咄嗟の判断で非常停止用押ボタンスイッチを操作すると、アクチュエータに挿入されていた鍵で手をケガする可能性があるためです。そのため、鍵リセットタイプの非常停止用押ボタンスイッチの使用は推奨されなくなりました。
なお、リスクアセスメントを実施した上で鍵リセットタイプの非常停止用押ボタンスイッチを使用する場合は、上記安全要求事項に基づく対応を実施ください。


4 意図しないリセット操作の防止

非常停止機能においては、人の“意図”が重要な役割を持つことは上述の通りです。意図した操作、意図しない操作の防止、意図したリセット操作については規格に明記されています。なお、意図しないリセット操作の防止については安全要求事項として明記はされてはいません。

しかし、「意図したリセット操作」と対になる「意図しないリセット操作の防止」は現実問題として重要です。段取り替えやメンテナンスなどで複数人が危険区域内に入る場合は、特に考慮する必要があります。
これまでは「意図しないリセット操作の防止」を実現するために、3.3項に示す鍵リセットタイプの非常停止用押ボタンスイッチを使用してきました。しかし、前述の通り推奨されなくなりました。そのため「意図しないリセット防止」については、別方策が必要となります。

その別方策の1つが、パドロック対応非常停止用押ボタンスイッチです。下図のように非常停止用押ボタンスイッチを操作した後でのみ、各作業者が自分専用の南京錠(パドロック)をかけることができます。そして、その鍵を作業者自身が携帯することにより、他の作業者による意図しないリセット操作を防止することができます。機械が再起動することもないので、各作業者が自分自身の安全を自分で確保することができます。

用途に応じて、以下のパドロック対応非常停止用押ボタンスイッチをご使用ください。

5 非常停止機器の制御範囲

非常停止機器を操作した場合、機械システム全体を停止させることが原則です。しかし、複雑な機械や機械システム全体を停止させると、新たな危険源を生じたり、生産に不必要な影響をおよぼしたりすることもあります。このような場合、以下に示すように機械や機械システムを部分的に停止させる「制御範囲」を設定することが例外的に可能です。
 

ISO13850:2015(JIS B9703:2019)

4.1.2項
各非常停止機器の制御範囲は機械全体を包含しなければならない。例外として、例えば、連結された全ての機械類を停止することが新たな危険源を生じる、又は生産に不必要な影響を及ぼす可能性がある場合は、機械全体をひとつの制御範囲とすることが適切ではない場合がある。

4.1.2.1項
次の要求事項を満たす場合は、複数の制御範囲を適用することができる。
 – 制御範囲は、明確に定義し、識別可能でなければならない。
 – 非常停止機器は,非常停止を必要とする危険源と容易に関連付けられなければならない。
 – 非常停止機器の制御範囲は、それぞれの非常停止機器の操作位置において識別可能でなければならない。
 – いかなる制御範囲においても、非常停止機器の作動が新たな危険源を生じてはならず、また、リスクを増加させてはならない。
 – ある制御範囲における非常停止機器の作動が、他の制御範囲における非常停止機能の始動を妨げてはならない。
 – 機械の使用上の情報は、非常停止機器の制御範囲に関する情報を含まなければならない。


制御範囲の概念を示す例
記号の説明
1 . 非常停止機器
2 . 制御範囲
3 . 機械の一部、又は機械

この安全要求事項により、非常停止機器による機械の停止範囲を、実状に合わせてきめ細かく設定ができます。
制御範囲を設定する場合、上記の安全要求事項に基づく対応を実施ください。

6 要求パフォーマンスレベル(PLr)、安全度水準(SIL)

非常停止機能に求められる最低限の要求パフォーマンスレベルPLrおよび安全度水準SILが、以下のように規定されています。
 

ISO13850:2015(JIS B9703:2019)

4.1.5項
非常停止装置
 
4.1.5.1項
非常停止機能を実行する制御システムまたはサブシステムの安全関連部は、ISO13849-1(JIS B9705-1)および/またはIEC62061(JIS B9961)の関連要求事項に従わなければならない。
要求されるパフォーマンスレベル(PL)またはSILの決定においては、非常停止機能の目的を考慮することが望ましいが、最低条件はPLr = c またはSIL 1とする。

リスクアセスメントの結果や対象機械のC規格の安全要求事項にもよりますが、最低限の要求として、非常停止機能にはPLr = c またはSIL 1が必要になります。

なお、PLrやSILの解説については、以下のリンク先にてご確認ください。

 
なお、ISO13849-1および/またはIEC62061に従った安全評価のための支援ソフトウェア:SISTEMAにおいては、以下の非常停止用押ボタンスイッチが登録されております。

PLやSILを検討する場合、必要に応じてSISTEMAをご活用ください。なお、SISTEMAの解説については、以下のリンク先にてご確認ください。

7 携行式オペレータコントロールステーションの非常停止機能

技術の進歩もあり、例えば、1つのティーチングペンダントを複数台のロボットで使えるようにするためにケーブル着脱式にしたい、無線化することで利便性を向上させたいなどのユーザ要求があります。
しかし、安全面についてはしっかりと考える必要があるため、着脱式や無線式のオペレータコントロールステーションについては、規格改訂により、内容が以下のように刷新されております。
 

ISO13850:2015(JIS B9703:2019)


4.3.8項
非常停止機器を取り外し可能(例えば、プラグ着脱可能な携行式教示ペンダント)またはケーブルレスオペレータコントロールステーションに設置する場合は、少なくとも1つの非常停止機器は機械上で恒久的に(例えば、固定された位置で)利用できなければならない。
さらに、有効な非常停止機器と無効な非常停止機器との混同を避けるために、次の方策のうち、少なくとも1つを適用しなければならない。
  • 照明によって有効な非常停止機器の色を変える。
  • 無効な非常停止機器に自動(自己起動する)カバーを付ける。これが実施不可能な場合、手動カバーを使用してもよい。その場合、カバーはケーブルレスオペレータコントロールステーションから外れないようにする。
  • 取り外し可能またはケーブルレスオペレータコントロールステーションの適切な保管場所を用意する。

有効な非常停止機器と無効な非常停止機器の混同を避けるために適用した方策を、機械の取扱説明書に記載しなければならない。また、その方策の正しい実施方法を明示しなければならない。

上記の安全要求事項は、着脱可能な携行式教示ペンダントまたはケーブルレスオペレータコントロールステーション上の非常停止機器が無効状態の時に、有効と思って非常停止機器を操作したにもかかわらず、非常停止機能が働かないために事故に繋がるようなことを防ぐことが目的です。着脱可能な携行式教示ペンダントまたはケーブルレスオペレータコントロールステーションを検討される場合、上記の安全要求事項に基づく対応を実施ください。