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安全スイッチとは

安全スイッチ(ドアインターロック装置)

多くの場合、稼働中の機械設備に人が接近すると重大事故が発生する可能性があります。そのため、稼働中の機械設備から人を隔離することで安全を確保する必要があります。一方、メンテナンス、段取り替え、清掃など、機械設備の中で作業を行わなければならない場合があります。この場合は、機械を完全に停止させることで安全を確保した上で機械設備内に入る必要があります【図1】。これらを「隔離」と「停止」による安全防護といい、機械設備の安全を確保する上での基本的な考え方になっています。
 
安全スイッチ(ドアインターロック装置、ガードインターロック装置と言われることもある)は、工作機械の正面扉や産業用ロボット周囲の安全柵の扉部分などに取り付けられ、扉の開閉検出を行う目的で使用されます【図2】。
つまり、扉が閉まっている場合だけ機械の稼働を許可し、扉が開いている場合は機械の停止を維持する制御システムの安全関連部の一部になります。

安全スイッチによる制御

安全スイッチには、機械の状態に関わらずいつでも扉を開くことができるロック無しタイプと、特定の条件を満たす時しか扉を開けることができないロック付タイプがあります。まず、基本的なロック無しタイプ安全スイッチについて以下に示します。

安全スイッチは図2のように、本体と専用アクチュエータが分離した構造になっています。本体を機械に取り付け、専用アクチュエータを扉に取り付けます。扉の開閉(安全スイッチ本体へのアクチュエータ挿入の有無)に連動して本体内部接点のオン/オフが切り替わり、その信号を扉の開閉情報として伝達します。
 
図3の左側の図は扉が閉じたときの安全スイッチの状態、右側の図は扉が開いた時の安全スイッチの状態を示しています。

左側の図のように扉が閉まると、扉に取り付けられたアクチュエータにより内部のカムが回転し、NC接点がバネの力でONになり、回路に電流が流れます。この時、制御システムは扉が閉まっていると判断し、機械を稼動可能な状態にします。

一方、右側の図のように扉が開くと、アクチュエータにより内部のカムが回転し、NC接点がカムに押し下げられてOFFになり、回路の電流が遮断されます。この時、制御システムは扉が開いていると判断し、機械を停止状態にします。停止状態が維持されているため、たとえ起動スイッチが操作されても機械は起動しません。

安全スイッチの構造上の特徴

以下に安全スイッチの構造上の特徴について説明します。

<無効化の防止>

安全上の観点から、扉が閉まっている状態でしか機械を稼働できないように、扉の開閉状態を安全スイッチで検知しています。
しかし、例えばワークの出し入れの度に扉を開閉させるのが面倒だとか、機械を動かしながら調整作業を行いたいなどといった理由で安全スイッチが無効化され、扉を開けたまま機械が稼働させられることがあります。これはいつ重大事故が起こってもおかしくない非常に危険な状態です。
このような安全スイッチの無効化を防止するため、図4に示すように、専用アクチュエータ以外のねじ、針、板状の金属片や、キー、コイン、ドライバなど日常的に用いる工具では、安全スイッチは無効化できない構造としています。
なお、上記の他にも無効化を防止するため、安全スイッチ本体および専用アクチュエータを機械に取り付ける時に考慮すべきことがあります。
ISO14119:機械類の安全性-ガードと共同するインターロック装置-設計及び選択のための原則 において、無効化防止のための要求事項が示されています。以下のリンク先にて解説しております。合わせてご確認ください。

 

<直接開路動作機能>

機械の内部にアクセスする作業者や保守作業員の安全を確保するために、扉を開く時は安全スイッチ内部のNC接点を開いて回路を遮断し、機械を停止させることが必要です。
そのため、安全スイッチに内蔵されているNC接点は直接開路動作機能を備える必要があります。

この直接開路動作機能とは、アクチュエータとNC接点の間が非弾性構造材だけで構成されていて、扉を開く力が直接的にNC接点を開く力として伝達する機能です。そのため万一、直接開路動作機能を持つNC接点が溶着していたとしても、扉を開くとNC接点を全て開くことができるため、機械を停止させることができます。

この直接開路動作機能を持つNC接点には、図5に示す矢印マークが表示されています。

扉のロックの必要性に応じた機種選択

安全スイッチには大きく分けるとロック無しとロック付の2つのタイプがあり、さらにロック付タイプには、安全目的のロック付タイプ(スプリングロックタイプ)、安全目的以外のロック付タイプ(ソレノイドロックタイプ)の2つのタイプがあります。
これら3つのタイプについて、どのような時にどのタイプの安全スイッチを選択するかについて、図6に示します。
 
図6 ①のように、扉を開けた時に機械の危険な可動部が即時に停止し、しかも扉にロックが不要の場合は、ここまでに説明してきたロック無しタイプ安全スイッチを選択ください。

図6 ②のように、扉を開けた時に機械の危険な可動部等が即時に停止するため、安全上は扉のロックは不要であるが、生産上の都合等により扉をロックしたい場合は、ソレノイドロックタイプ安全スイッチ(安全目的以外のロック付タイプ)を選択ください。

図6 ③のように、扉を開けても機械の危険な可動部が即時に停止せず、惰性運転等により人に危害が加わる可能性がある場合は、スプリングロックタイプ安全スイッチ(安全目的のロック付タイプ)を選択ください。

スプリングロックタイプ安全スイッチの用途

図7に、スプリングロックタイプ安全スイッチを工作機械の扉に設置した例を示します。主に慣性が大きくてすぐに停止できない機械に設置され、機械の運転中は扉をしっかりロックし、惰性運転が完全に停止した後でないと扉を開けられないようにします。こうすることで、機械の惰性運転による人への危害を防ぐことができます。

スプリングロックタイプ安全スイッチは、主に大型マシニングセンタや旋盤などのように停止信号が入ってもしばらく惰性運転を継続するような機械や、産業用ロボットなどのように停止信号が入ってもサイクル終了までは動き続けるような機械など、機械的危険源によるリスクの高い機械で多く使用されます。機械的危険源の他にも、熱的危険源などのリスクが下がるまでに時間を必要とする危険源の隔離にも用いられます。

スプリングロックタイプ安全スイッチの安全上の特徴

スプリングロックタイプ安全スイッチのロック/ロック解除の基本動作を図8に示します。
 
上記の図8の左図のように、扉が閉じてアクチュエータが挿入されると圧縮ばねの力でロッドが左に移動し、カムの凹部にはまり込みます。この時、ロッドによりカムが回転できない状態のため、アクチュエータを引き抜くことができず扉がロック状態になります。
ロック解除する場合は、右図のようにソレノイドに電流を流すと磁力が発生し、発生した磁力が圧縮ばねの力を上回るとロッドは右に移動し、ロックが解除されてカムが回転できる状態になります。

このようなロック/ロック解除の方式にしていることには安全上の理由があります。それは不意の停電や断線故障を考慮しているからです。もし、不意の停電や断線故障によりロックが解除されると、慣性が大きくてすぐに停止できない機械の惰性運転に巻き込まれて事故に合う可能性があるからです。

スプリングロックタイプ安全スイッチを使用している場合は、不意の停電や断線故障があったとしても、ソレノイドに動力を供給できないので、ロック解除することができず、扉を開くことができません。その代わり、惰性運転中の機械に人が巻き込まれて事故になることはありません。

このように惰性運転によるリスクが高い機械には、不意の停電や断線故障でも安全が確保できるように、スプリングロックタイプ安全スイッチを使用する必要があります。

スプリングロックタイプ安全スイッチの構造

スプリングロックタイプ安全スイッチの標準的な構造を図9に示します。
 
図9の左半分は、ロック無し安全スイッチの構造とほぼ同じです。扉の開閉時に、扉に取り付けたアクチュエータと連動してカムが回転し、扉の開/閉検知用接点Cを開/閉させることにより、端子1-端子2間の回路を開(open)/閉(close)します。

一方、図9の右半分は扉のロック/ロック解除を司る部分です。図9はソレノイドが無励磁(電圧が加わっていない)状態であり、圧縮ばねFによってロッドBがカムの凹部とかみ合ったロック状態です。
機械を稼働するには、図9のように扉が閉じていることに加えて、扉がロックされていることが必要です。そのため、接点Cと接点Dを直列に接続することによって、両方がオンしている時のみ機械を稼働可能にします。

スプリングロックタイプ安全スイッチと扉の開閉

図10にスプリングロックタイプ安全スイッチと扉の開閉の関係を示します。
 

<状態1>

扉が閉じてロックされており、機械は稼働可能な状態です。より詳細に見ていくと、アクチュエータが本体に挿入されているので、C部のNC接点は閉じた(close)状態です。また、ソレノイドは励磁されておらず、ロッドは圧縮ばねの力でカムの凹部とかみ合ってロックがかかり、C部のNC接点も閉じた(close)状態です。その結果、端子1から端子2へ電流が流れます。これは扉が閉じてロックされていることを意味しており、機械は稼働可能な状態(安全状態)です。
 

<状態2>

機械が停止して、ロックが解除された状態です。惰性運転などの終了による機械の停止を別途検出した後、ソレノイドを励磁した状態であり、D部のNC接点は開いて(open)います。その結果、端子1から端子2への電流が遮断され、機械は稼働できない状態です。
なお、ソレノイドが励磁されてロックが解除されているので、扉は開けられます。
 

<状態3>

扉が開いている状態です。アクチュエータが抜かれたため、ロッドによりC部のNC接点が開いて(open)しています。カムが回転したことにより、ソレノイドの励磁状態に関わらずD部のNC接点を開いた(open)位置にロッドが保持されています。このように、扉が開いているときはC部のNC接点およびD部のNC接点を両方開いた(open)状態にすることで機械の停止状態を高い信頼性を持って維持しています。
 

その後、機械を再稼働させるには、扉を閉めて状態1に戻します。

ただし、一部の例外を除き、扉を閉めただけで機械が稼働してしまうことは思わぬ事故に繋がる可能性があります。そのため、オペレーターが周囲の安全を確認した上で、安全な位置に設けられた別のスタートボタンを押すことでしか機械を再稼働できないようにしておく必要があります。  

ソレノイドロックタイプ安全スイッチの用途

図11に、安全スイッチを工作機械の扉に設置した例を示します。機械の運転中は扉を閉じて人を危険源から隔離しておく必要があります。扉を開けるとすぐに停止する機械の場合、安全上は扉のロックは必要ありません。しかし、扉を開けるとすぐに機械が停止するので安全であるが、不必要にラインを止めたくないとか、加工中のワークにダメージが生じて破棄することは避けたいなど、生産上の都合等で扉をロックしたい場合があります。

ソレノイドロックタイプ安全スイッチの安全上の特徴

ソレノイドロックタイプ安全スイッチのロック/ロック解除の基本動作を図12に示します。扉をロックする場合、扉が閉じてアクチュエータが挿入された後でソレノイドに電力を供給します。その電磁力によってロッドが圧縮ばねの力に抗してカムの凹部にはまり込むことでロックする方式です。なお、電力供給を遮断すると圧縮ばねの力でロッドがカムと反対方向(図12では右)に移動し、ロックが解除されます。
 
なお、扉が閉まっていてロックされている時に不意の停電や断線故障があった場合、ソレノイドへの動力遮断によりロックが解除され、扉を開けることが可能になります。そのため、もし危険な惰性運転のある機械にソレノイドロックタイプ安全スイッチを間違って使用していた場合、停電や断線故障時に作業者が扉を開けて機械の内部状況を確認した時に、惰性運転中の機械で事故に合う可能性があるので大変危険です。そのため、ソレノイドロックタイプ安全スイッチは惰性運転が無く、停止信号が入った時にすぐに停止する機械にのみ使用可能です。

ソレノイドロックタイプ安全スイッチと扉の開閉

図13にソレノイドロックタイプ安全スイッチと扉の開閉の関係を示します。
 

<状態1>

扉が閉じてロックされており、機械は稼働可能な状態です。より詳細に見ていくと、アクチュエータが本体に挿入されているので、C部のNC接点は閉じた(close)状態です。また、ソレノイドが励磁されてロッドが圧縮ばねの力に反してカムの凹部とかみ合ってロックされており、D部のNC接点は閉じて(close)います。その結果、端子1から端子2へ電流が流れます。これは扉が閉じてロックされていることを意味しており、機械は稼働可能な状態(安全状態)です。
 

<状態2>

ソレノイドの励磁が解除されたことで、圧縮バネによりロッドがカムの凹部から外れ、カムが回転可能な状態になっています。この時、D部のNC接点は開いて(open)います。その結果、端子1から端子2への電流が遮断され、機械は稼働できない状態です。ロックが解除されているので、扉は開けられます。
 

<状態3>

扉が開いている状態です。アクチュエータが抜かれたため、C部のNC接点が開いて(open)しています。カムが回転したことにより、ソレノイドの励磁状態に関わらずD部のNC接点が開いた(open)位置でロッドが保持されます。このように、扉が開いているときはC部のNC接点およびD部のNC接点を両方開いた(open)状態にすることで機械の停止状態を高い信頼性で維持しています。
 

その後、機械を再稼働させるには、扉を閉めた後にソレノイドを励磁して扉をロックし、状態1に戻すことが必要です。

安全スイッチを取り付ける場合の注意事項

ロック無し安全スイッチ、ソレノイドロックタイプ安全スイッチ、スプリングロックタイプ安全スイッチのいずれの場合においても、機械への取り付け時に考慮すべきことがあります。

例えば、扉を閉めた状態でアクチュエータとスイッチ本体の間に適切な隙間を設けておくことや、扉に専用のストッパを設置することです(図14)。こうすることで、アクチュエータや扉自体が安全スイッチ本体に衝突して取り付け位置がズレたり、破損したりすることを防止できます。

また、勢いよく扉を閉めた時の反動による扉のバウンスについても注意が必要です。というのも、扉のバウンスにより次のような状態になる場合があります。

●ロック無し安全スイッチにおいて、扉のバウンスにより安全スイッチの内部カムに中途半端に力が加わり、2重化しているNC接点の片側だけが開く(open)。その結果、故障と誤認識されて機械を稼働できない。

●ロック付タイプ安全スイッチにおいて、扉のバウンスによりロック機構に力が加わることで、ロッドの動作に摩擦力が生じ、ロックを解除しようとしてもロッドが動かないために扉を開くことができない。

●ロック付タイプ安全スイッチにおいて、繰り返しの扉のバウンスによりのロック機構に繰り返し力が加わり、ロック機構および/またはNC接点開/閉機構が破損する。

機械を運転可能とする条件

機械を稼働するには、扉が閉じて、さらにロックされていることの両方を満足する必要があります。 例えば図9に示すように、扉の開/閉検知用接点と、ロック/ロック解除検知用接点を直列に接続することで、この条件を満足できます。
もちろん、安全上はこの方式で十分なのですが、扉の開/閉検知用接点と、ロック/ロック解除検知用接点の2つのNC接点が必要になります。
 

一方、扉が閉まってロックされた時しかオンしないNC接点を安全スイッチの構造自体で実現している製品もあります。この場合、NC接点が1つでよいため相対的に安全スイッチの大きさを小さくできたり、接点数が少ない分、コストを抑えたりすることができます。このような扉が閉まってロックされた時しかオンしないNC接点には図15に示すロック監視マークが表示されています。
このロック監視マークを持つNC接点は、制御システムの安全関連部において、機械を稼働させるための安全条件の1つとして使用可能です。
ただし、このロック監視マークを持つNC接点を単独で安全条件とするためには、もう1つ考慮すべきことがあります。
それはロック機構が壊れた時にどうなるのか?ということです。例えば、ロック状態にある安全スイッチに対して、メーカーが定めるロック時のアクチュエータ引き抜き強度仕様値を超える静的な力が加わったり、たとえロック時のアクチュエータ引き抜き強度仕様値以下の力であっても扉のバウンスなどによりロック機構に繰り返し動的な力が加わったりするとロック機構が破損する可能性があります。

このように、もしロック機構が壊れて扉が開いた時に、機械は停止するのか(安全側故障)、それとも停止しないのか(危険側故障)、どちらの故障状態になるのかは安全上、極めて重要です。というのも、このロック監視マーク付の安全スイッチを使用するのは、主として作業者が重大事故に遭う可能性のある機械です。そのため、もしロック機構が破損した場合でも、機械を停止させて作業者が重大事故に遭わないようすることが必要です。

そのため、スプリングロックタイプ安全スイッチを選定する際は、図15に示すロック監視マークが表示されている製品を選択すると共に、ロック機構が破損した場合の故障状態を確認することが推奨されます。

もし、スプリングロックタイプ安全スイッチのロック機構が破損した場合に、機械が停止しない危険側故障になる、もしくは危険側故障か安全側故障のどちらになるのか不確定の場合、当該スプリングロックタイプ安全スイッチとは別に、ロック無し安全スイッチもしくは安全リミットスイッチの扉への設置が必要です。なお、PL=e、カテゴリ4が必要な場合は、同様にスプリングロックタイプ安全スイッチとは別に、ロック無し安全スイッチもしくは安全リミットスイッチの扉への設置が規格上必要となります。